あらすじ|
妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL……。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。
アイネクライネナハトムジーク | 株式会社 幻冬舎 (gentosha.co.jp)
- 伊坂作品にはめずらしい、出会い(恋)がテーマ
- 小話がそれぞれ独立して面白いのは前提で、その小話同士がカチカチくっついていくのがさらによい
- 『斉藤さん』は、きっとあなたの心にもいます、、
感想|
じんわり ビックリ 爽快
テーマは出会い
本作はある意味、異色の作品と呼んでもいいのかもしれない。
何と、誰も死なないのだ。
伊坂 幸太郎が描いているのにも関わらず。
逆に不穏さすら感じる。
(前提がそもそも不穏…)
何度も書いているが、人と人との出会いだったり、繋がりがこの物語のキーになる。
なので、恋愛的な物語もある。昔からの伊坂ファンからするとビックリ小説である。
では、全く今までとは違うストーリー運びになるのか。
そうではないのだ…
物語全体の繋がり方は相変わらずの仕上がりである。
「あの話のアイツが、ここではこんな役回りなのか」
と、思ったら
「この子、アイツの娘やったのか」
といった具合に各話の登場人物が交差しあって繋がり合う。
それでいて、くどく無くって無駄がない、お見事。
この辺りは、周知だけども伊坂の超得意とするところで、全ての小話が欠かせないピースになっていて、読み進めるにつれてそれらが繋がっていく。
最後には一枚の絵になっている。読み終わった時のあの感覚は、完成したパズルを眺める時のような、満足感、達成感の余韻が味わえる。良い。
出会い、それだけ、んな訳がなくて
恋愛小説は世の中に沢山ある。それらと同じようなものを書くはずはない。
と、いうことはファンが一番知っているだろう。
「敵」が登場する。
敵、というのは少々言い過ぎだった。
登場人物たちにとっての「障害的な人間」くらいにしておこう。
その障害たちに対してどのように立ち向かっていくのか、そこがまたこの小説の面白い所なのだ。
目には目を歯には歯を、ではない。
目には塩水を吹きかけ、歯には砂糖を塗りたくるような戦い方をするのだ。
ちょっと違うか。
まあその、言いたきは、まっすぐ跳ね返すのではなく、変化球で立ち向かっていく。
技で戦うところが良い。
特に『おたくのお嬢さん大作戦』は良い。
じゃあ、自分も同じことが出来るのか。
「勇気はあるか?」そう問いかけられている気分である。
読み終えて
こんなハートフルな物語が(伊坂作品に)あったでしょうか。。
また違った面が見れたのは良かったです。面白かった。
それに加えてです。
先述した通り従来作品の良い所も存分に滲み出していて、例えばウィンストン小野の打ち合いのシーンなんかがそうです。
あの臨場感、活字とは思えない迫力を感じます。
これはどの伊坂作品でも通じるとこだなと思って読んでました。
本書では『良い出会い』についてこう語ります。
「思い出したときに、出会ったのが彼女で、彼で良かったと思うとき、それが良い出会いという事」
すごい良いっすよね。「思い出したとき」ってのがポイントです。
出会いは刹那的にその瞬間に感じるのではなくて、思い出したときに感じるモノやと。
良いなあ。
あなたには、そんな出会いがありましたか?
「うるさいな、あるかいボケ」
そう思ったあなた、無いはずがないのです。
ぜひ、この小説を読んでくださいな。きっと気付けます。面白かった!