あらすじ|
気高いまでの破廉恥。 ―近代文学を現代京都に転生させた名短編集―
芽野史郎は全力で京都を疾走した――無二の親友との約束を守「らない」ために! 表題作の他、近代文学の傑作四篇が、全く違う魅力をまとい現代京都で生まれ変わる! 滑稽の頂点をきわめた、歴史的短編集!
引用:「新釈 走れメロス 他四篇」 森見 登美彦[角川文庫] – KADOKAWA
- 名だたる文豪たちの名作を現代版にアレンジした短篇集!
- 全て、京都のとある大学まわりを共通の舞台に(もしくはその頃の話を軸に)ストーリーが展開されます
人間っぽい部分というのを表すには「大学生」という存在が一番適しているのでしょうか… - 個人的一番推しは、タイトルになっている「走れメロス」。
あらすじ通り、滑稽の極致でございます。笑 - 小学生にとっても、大人にとっても、国語の教科書で見たことある「あの物語」たちがベースですので、どんな方にもおススメです! 各章すぐに読みきれる!
感想|
刺さる おもろい
どの短編も刺さった。吸い込まれるように読んだ。それはどれも、元になっている物が何代にも渡って広がり続けた名著だからなのかもしれない。装いを変えても中身は変わらない魅力を保ち続けているということか。でも、それで語りきってしまうのは足りない。
何故なら、どれも原典とは違う切り口で、舞台でストーリーが進んでいくからだ。でもそのリキッドは全く損なわれていない。ここが、この「新釈 走れメロス」のスゴいところなんやろう。と、ここまで書いてみて、文庫版の千野さんの後書きで語られる内容と大差ない事に気付いてしまった。けど、それでも強調したい。こちらの本は全部で五つの章からなる短篇集となっている。その中でも3つピックアップする。
■山月記
ここでの主役は孤高の変態学生、斎藤。自分には能力がある。他の何者とも違う、何者かになれる資格を持つ存在。この先絶対に偉大になれるから、今をただ歩けばいい。この唯一無二感、山月記の李徴とそっくりそのまま重なるんです。舞台を現代の大学生に引き継ぐことで、より現実感を持って迫ってきます。
あなたは虎に、天狗になってしまわない自信があるだろうか。あったらそれはもう、危険信号かもしれません。
■走れメロス
僕としてはもう書き出しから良かったです。国語の時間がぶわっと脳内に甦りました。軸はやっぱり友との絆の証明。これ、ああ、同じやんって思うじゃないですか。違うんですね… 進む方向を全く逆にして描き出すんです。でもしかし、原典同様(いや、同様は違うかもしれない)熱い、いや暑苦しい、ムワッと蒸すような友情がそこにあるんですね。全力でアホをやるってのは、最強におもろい!ほんまにすごいと思います!笑
■桜の森の満開の下
自分を認めてくれる人、自分の進むべき方角を示してくれる人、そんな人と一緒にいれるのは、心地よく良いことだと思うでしょう。一緒にいたことで、思いもしなかった場所に辿り着けたらどうでしょう。素晴らしいことじゃないですか? たとえ自分が信じてきたものが、自分で形作ってきたものがなくなってしまったとしても。
…果たしてそう思えるでしょうか。いつの間にか自分の人生という舞台上から、自分自身が消えてしまう。でも、気付いた時にはもう遅い。
この章を読み終わったときに感じた、胸の奥が不穏に揺らめく感覚。それは他人事ではないと自覚している事の裏返しなのかもしれない… 森見作品のユーモアはない、刺さる。僕はこれを読んでから原典を知り読みました。元の壮絶な部分は色を変えているものの、これも軸はブレていないんですね。
「男の腹の中で一つの石になりました」
ここがターニングポイントか…