あらすじ|
黒髪の乙女にひそかに想いを寄せる先輩は、京都のいたるところで彼女の姿を追い求めた。二人を待ち受ける珍事件の数々、そして運命の大転回。山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位の大傑作。
森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」原作特設サイト | KADOKAWA
- 主人公は、地味で、誇大妄想に耽ることを得意とする、まだモテていないだけの男子学生、先輩
- 対するヒロインは、超天然女、黒髪の乙女こと、後輩
- 遂に、彼は、外堀を埋めることは出来たのか、、
哀歓青春群像劇
感想|
オモロイ
彼女と結ばれる為だけに展開される、外堀大作戦
本作の主人公、先輩(以降、彼)は1人の女性に恋する大学生。
その女性とは本作のヒロイン、黒髪の乙女こと、後輩(以降、彼女)。
彼が彼女を追いかけ続けることが本作のテーマである。
ここで一つ、大事なことだが、彼は全く素直な人間ではない。
彼女に対して、ストレートに好意を伝えることを良しとしない。
良しとしない、と本人はしているが、実のところは、それが出来ない。好きと言えない不器用な男なのである。
『好意が伝わる行動』から、出来るだけ遠い手段、しかし、彼女に対して、好意的に思ってもらえるような行動を取ろうと試み続ける。
彼に言わしてみる所「外堀を埋める作戦」で彼女と親密な関係になろうと企てる。
可能な限り、自然に見えるエンカウントを装って、彼女とたくさん接点を作り、ついには結ばれる、という作戦である(ほとんどストーカーと言っていい)
「こんなアプローチが上手くいくのか」
そう思った方がいると思う。
そこのあなた、その通りだ。
もしも、上手くいくようなことがあれば、こんな一冊の小説にはなっていない。
舞台は巡り、しかし、外堀は外堀のままで
ある時は、大宴会場で。
ある時は、古書堂の秘密の部屋で。
ある時は、学園祭で。
あらゆる舞台で、彼は『外堀作戦』を実行して、彼女と仲良くなろうと試みる。
先ほども書いたが、こんなの、上手くいくのか。
彼の作戦が上手く運んでいるのかどうか、細かいことは本編を読んで確かめてもらうと良い。
ここで言えることは、彼のこの思考は、典型的な『モテない男、いつまで経っても彼女が出来ない男』のそれであるということだ。
回りくどい奴は、モテない。。
それでは、「彼はダメな奴だな」という一言で片付けてしまうのかというと、それもできない。
なぜなら、管理人であるたまごも、彼の気持ちが痛いほどよく分かるからである。
シンプルな話、フラれるのが怖いのだ。
その結末を突きつけられてしまうかもしれない。
それが、とてつもなく恐ろしいのだ。
分かる。
分かる。。
より親密になりたい、結ばれたい。そう思うから、アプローチをかける。
しかし、相手がそう思ってはいない場合、悲しい現実を突きつけられることになる。
アプローチを積極的にかければかけるほど、どちらであろうと、より早く結末まで辿り着くことが出来る。
無事、結ばれればいい。
でも、もしも、、、
そう思ってしまうと、彼女に、あからさまな好意を伝えることが怖くてたまらなくなる。
逆に何もしなければ、そんな思いをすることも無いかもしれない。
しかし、彼は彼女に近づきたい。
その結果どうなるか。
外堀を埋めるしかなくなるのだ。
モテない男ほどこうなってしまうのだと思う。
モテない奴ほどフラれるのが怖いのだ。
(書きながらも、心が痛い)
とても気持ちは分かる。
と、言いつつ、たまごは初めての彼女が出来るまでに5回フラれた経験を持つ男でもある。
フラれすぎである。7転び8起きを地で行く勢いだ。
まあ、その話はまた別記事で語るとする。
大事なのは、彼は一歩、踏み込むことができるのか、ということだ。
彼は、“黒髪の乙女”の心を射止めることが出来るのか。
読み終えて
面白かったですね。
森見登美彦の文体が好きなのですよね。
一見難解に見せかけるような、語り口調。
なのですが、その本質は、というか私の感じ方は、全力でふざけているのですよね。
アホやな、こいつ、と思われる登場人物を全力で描く。だから面白い。
今回は、その全力アホの根底に、モテない男子学生スピリットが込められていたから、おもろいし、気持ちもわかるし、という感覚で、読み進めていました。
さすがに、ここまで拗らせていませんでしたが。
この、先輩、現実なら絶対にずっと彼女が出来ないタイプの男。
彼の恋路の行く末は、ここでは割愛します。
彼は、彼女の気を引くためだけに様々な苦難に挑みます。
その苦難がまた、滅茶苦茶にバカっぽくて良いのです。
死ぬほど暑い部屋で火鍋を食べる、とか。
学園祭での演劇の主役を乗っ取る、とか。
文字面だけでは意味が分かりませんが、そんな訳の分からない戦いに彼は挑みます。
そこも、この作品の魅力です。
また、本作には全然関係ない話です。
羽貫さんが登場して思い出したのですが。
森見登美彦さんは歯医者のお姉さんが好きなのかしら。
四畳半神話大系も、ペンギンハイウェイでも出てきましたよね。
まあ、なんとなく魅力的というのは理解できます。
せっかくなので、ペンギンハイウェイを置いておきます。
あともう一つ。
こちらも京都が舞台、やし、微妙に登場人物も重なっていた気がする、森見作品を置いておきます。
今回はこの辺で。それでは~(^ ^)/